逆子と脳の発達の関係は?医師が影響や原因を分かりやすく解説
妊娠中に逆子と診断されると、「赤ちゃんの脳の発達に影響があるのでは」と不安を感じるかもしれません。
しかし、逆子という状態そのものが、お腹の中にいる赤ちゃんの脳に直接影響を及ぼすことはありません。
心配されるのは、主に出産時のリスクが脳に影響を与える可能性です。
この記事では、逆子と脳発達の関係性、分娩時のリスク、逆子になる原因、そして具体的な対処法について、医学的な情報に基づき解説します。
逆子自体が赤ちゃんの脳の発達に直接影響するわけではない
逆子(骨盤位)とは、胎児の頭が上で足やお尻が下になっている状態を指します。
この状態自体が、妊娠期間中の赤ちゃんの脳の発育に直接的な悪影響を与えるという医学的根拠はありません。
子宮内で赤ちゃんがどのような向きでいるかと、脳の神経細胞が作られ成長していく過程は別の事象です。
多くの妊婦が一度は経験する状態であり、特に妊娠中期までは珍しくありません。
脳の発達への影響が懸念されるのは、逆子の状態そのものではなく、後述する分娩時に起こりうるトラブルに起因します。
なぜ心配される?逆子による分娩時のリスクが脳に影響する可能性
逆子の状態でお腹の中にいること自体は問題ありませんが、経腟分娩を試みる場合には特有のリスクが伴います。
通常の分娩(頭位)では最も大きい頭から産道を通るのに対し、逆子では足やお尻から出て最後に頭が出ます。
このため、分娩の過程で臍帯(へその緒)が圧迫されたり、頭が引っかかったりする逆子のリスクが生じます。
これらのトラブルが原因で赤ちゃんへの酸素供給が滞ると、脳に影響が及ぶ可能性があるため、慎重な分娩方法の選択が求められます。
リスク1:へその緒が圧迫され酸素が届きにくくなる(臍帯圧迫・脱出)
逆子の経腟分娩で最も懸念されるリスクの一つが、臍帯の圧迫や脱出です。
分娩の進行に伴い、赤ちゃんの体と産道の壁との間にへその緒が挟まれて圧迫される(臍帯圧迫)ことがあります。
また、赤ちゃんより先にへその緒が子宮口から外へ出てしまう状態(臍帯脱出)も起こり得ます。
へその緒は胎盤から赤ちゃんへ酸素や栄養を運ぶ生命線であるため、これが圧迫されると血流が途絶え、赤ちゃんは深刻な低酸素状態に陥ります。
この状態が長時間続くと、脳細胞に損傷を与え、後遺症につながる危険性があります。
リスク2:お産が長引き赤ちゃんが疲れてしまう(分娩遷延)
頭位分娩では、最も大きい頭が産道を押し広げながら通過するため、その後の体は比較的スムーズに出てきます。
一方、逆子分娩では足やお尻といった小さい部分から先に出てくるため、産道が十分に広がりません。
その結果、最後に最も大きい頭が骨盤に引っかかってしまい、なかなか出てこられない状況(児頭娩出困難)に陥ることがあります。
これによりお産が長引くことを分娩遷延と呼びます。
分娩が長引くと赤ちゃんは強いストレスにさらされて疲弊し、心拍数が低下するなど危険な状態になる可能性があります。
リスク3:分娩時のトラブルによる新生児低酸素性虚血性脳症(HIE)
新生児低酸素性虚血性脳症(HIE)は、出産の前後に赤ちゃんへの酸素供給が著しく不足したり、脳への血流が途絶えたりすることによって脳細胞が損傷を受ける病態です。
逆子分娩で起こりうる臍帯圧迫や分娩遷延といったトラブルは、このHIEを引き起こすリスクを高めます。
HIEの重症度によっては、運動機能に障害が残る脳性麻痺や、知的障害、てんかんといった深刻な後遺症の原因となる場合があります。
現代の産科医療で逆子の経腟分娩が慎重に行われるのは、このような重篤な事態を未然に防ぐためです。
そもそも逆子になってしまう主な原因
逆子になる原因は一つに特定できるわけではなく、多くは複数の要因が複合的に関わっていると考えられています。
原因がはっきりとしないケースも少なくありません。
一般的に、逆子の原因は母体側の要因、胎盤の位置や羊水量といった子宮内環境の要因、そして赤ちゃん側の要因の3つに大別されます。
これらの要因によって、赤ちゃんが子宮内で頭を下に向けた姿勢(頭位)を自然にとることが難しくなり、逆子の状態が維持されると考えられています。
ママの骨盤の形や子宮の状態が関係するケース
母体側の要因として、まず骨盤の形状が挙げられます。
骨盤の入り口が狭い「狭骨盤」の場合、赤ちゃんの大きな頭が骨盤内にはまりにくく、結果として頭を上にした姿勢をとりやすくなります。
また、子宮筋腫や子宮内膜ポリープがあったり、双角子宮などの子宮奇形があったりすると、子宮の内部が変形して赤ちゃんが回転するためのスペースが十分に確保できません。
これらの物理的な制約が、赤ちゃんが自然に頭位になるのを妨げ、逆子の原因となることがあります。
胎盤の位置や羊水の量が影響するケース
胎盤が子宮の低い位置、特に子宮口の近くに付着している前置胎盤や低置胎盤の場合、赤ちゃんの頭が骨盤内に入るのを妨げる障害物となり、逆子の原因になります。
羊水の量も大きく関わっており、羊水が多すぎる羊水過多の状態では、子宮内に広いスペースがあるため赤ちゃんが自由に動き回れ、逆子の位置で固定されにくくなります。
逆に、羊水が少なすぎる羊水過少では、赤ちゃんが回転するための十分なスペースや潤滑性がなく、一度逆子になると体勢を変えるのが困難になる傾向があります。
赤ちゃん自身が動きやすいなど胎児側の要因
赤ちゃん側の要因としては、まず多胎妊娠が挙げられます。
双子や三つ子の場合、子宮内のスペースが限られるため、お互いの位置関係から一方または両方が逆子になる確率が高まります。
また、妊娠週数が早い段階では赤ちゃんがまだ小さく、子宮内で動き回る余裕があるため逆子になっていることはごく普通です。
そのほか、稀なケースですが、胎児に水頭症などがあり頭部が通常より大きい場合、重さのバランスで頭が上になりやすいとも言われています。
これらの要因が赤ちゃん自身の回転を妨げたり、促したりします。
逆子と診断されたら|自然に治る時期と対処法
妊娠中期頃に逆子と診断されても、多くの場合は自然に治るため、過度に心配する必要はありません。
妊娠週数が進んでも逆子が続く場合に、医師の指導のもとで逆子体操や外回転術といった対処法が検討されます。
どのような対処法をいつから行うかは、妊婦一人ひとりの状態によって異なります。
自己判断で何かを始めるのではなく、まずはかかりつけの医師や助産師と十分に相談し、適切なアドバイスを受けることが基本となります。
多くの逆子は妊娠後期までに自然に正しい位置へ戻る
妊娠28週未満の中期段階では、約3割の赤ちゃんが逆子の状態にあるとされています。
この時期は子宮内にまだスペースの余裕があり、赤ちゃんも活発に動き回るため、一時的に逆子になるのは自然なことです。
週数が進み赤ちゃんが成長すると、重い頭が自然と下がるようになり、子宮の形に沿って頭位に落ち着いていきます。
実際に、妊娠8ヶ月(28~31週)頃までには多くの逆子が自然に治り、妊娠9ヶ月(32~35週)を過ぎる頃には逆子の割合は全体の3~5%程度まで減少します。
そのため、早い段階で診断されても冷静に経過を見守ることが大切です。
医師の指導のもとで行う逆子体操の種類と注意点
妊娠後期になっても逆子が治らない場合に、逆子体操が勧められることがあります。
代表的な方法として、四つん這いになり胸を床につけてお尻を高く持ち上げる「胸膝位」や、医師に指示された側を下にして横になる「側臥位」などがあります。
これらの体操は、骨盤周りの筋肉の緊張を和らげ、赤ちゃんが回転しやすくなるスペースを作ることを目的としています。
ただし、体操の効果には個人差があり、医学的な有効性が完全に証明されているわけではありません。
お腹の張りや気分の悪さを感じた場合はすぐに中止し、必ず医師や助産師の指導のもとで安全に行う必要があります。
お腹の外から赤ちゃんの向きを治す外回転術
外回転術(ECV)は、医師が妊婦のお腹の上から手で胎児の位置を確認し、ゆっくりと力を加えて回転させ、頭位に戻す医療処置です。
一般的に妊娠36週から37週頃に、分娩方法を最終決定する前の選択肢として検討されます。
成功率は約50%と報告されていますが、胎盤の位置や羊水量、赤ちゃんの向きなどによっては実施できないケースもあります。処置中は超音波で赤ちゃんの心拍などを常に監視し、安全を確認しながら行われますが、稀に破水や胎盤早期剥離といったリスクを伴うため、緊急帝王切開に対応できる体制が整った医療機関で実施されます。
逆子が治らない場合の出産方法と赤ちゃんへの影響
妊娠後期になっても逆子が治らず、外回転術を行わない、あるいは成功しなかった場合には、出産方法を具体的に決定します。
現代の産科医療では、逆子分娩に伴うさまざまなリスクを回避し、母子ともに最も安全な出産を目指す観点から、予定帝王切開が第一選択となることがほとんどです。
特定の条件を満たせば経腟分娩が可能な場合もありますが、その判断は極めて慎重に行われます。
赤ちゃんの安全を第一に考える計画帝王切開
逆子の経腟分娩では、へその緒が圧迫されて赤ちゃんが低酸素状態に陥るリスクや、最後に娩出される頭が産道に引っかかるリスクがあります。
これらの合併症は、赤ちゃんの生命やその後の健康に重大な影響を及ぼす可能性があるため、予防することが極めて重要です。
計画帝王切開は、陣痛が始まる前の適切な時期に手術日を設定して行うため、分娩時の突発的なトラブルを回避できます。
これにより、赤ちゃんが低酸素に陥る危険性を大幅に減らし、母子の安全を確保することが可能です。
そのため、多くの医療機関で逆子の出産方法として推奨されています。
帝王切開による出産が脳の発達に与える影響について
帝王切開で出産したことが、赤ちゃんの脳の発育や発達に直接的な悪影響を及ぼすという明確な因果関係を示す科学的根拠はまだ確立されていません。しかし、大規模な疫学調査であるエコチル調査では、帝王切開で生まれた女児が3歳時点で運動発達遅延や自閉スペクトラム症と診断される頻度が高い可能性が示唆されています。ただし、これは観察研究であり、帝王切開とこれらの発達障害の間に直接的な因果関係があるとは断定できず、さらなる詳細な調査が求められています。
また、一部の研究では、経腟分娩と帝王切開で生まれた赤ちゃんの腸内細菌叢に違いがあることが報告されており、帝王切開で生まれた赤ちゃんは腸内細菌叢の構成が経腟分娩とは異なるとされています。 この腸内細菌叢の違いが、学童期の認知能力の発達に影響を与える可能性を示唆する研究も存在します。
一方で、逆子などの場合に経腟分娩に伴う低酸素のリスクを回避するために帝王切開を選択することは、赤ちゃんの脳を守るための安全な医療的判断となることもあります。出産方法の違いだけでなく、出生後の栄養や愛情に満ちた育児環境も、子どもの健やかな発達にとって非常に重要な要素であると考えられています。
逆子と脳の発達に関するよくある質問
逆子と診断されると、脳への影響だけでなく、発達障害との関連や予防法など、さまざまな疑問が浮かぶものです。
ここでは、妊婦やその家族から寄せられることが多い質問について、医学的な知見を基に解説します。
正しい情報を知ることで、不要な不安を解消し、安心して出産に臨むための参考にしてください。
Q. 逆子で生まれた子どもに発達障害のリスクはありますか?
逆子であったこと自体が、自閉スペクトラム症やADHDといった発達障害の直接的な原因になるという医学的根拠はありません。
発達障害の多くは、生まれつきの脳機能の特性によるものと考えられています。
ただし、非常に稀ですが、無脳症などの胎児の先天的な異常が原因で、子宮内での動きが制限されて逆子になることがあります。
また、分娩時の重篤な低酸素状態が脳にダメージを与え、脳性麻痺などを引き起こし、結果的に発達面に影響が及ぶ可能性はゼロではありません。
しかし、適切な周産期管理のもとで安全な分娩が行われれば、逆子が出産後の発達障害のリスクを高めることはないと考えられています。
Q. 逆子を予防するために日常生活でできることはありますか?
逆子になる原因は様々であるため、これをすれば確実に予防できるという特定の方法は確立されていません。
しかし、日常生活で心がけられることとして、体の冷えを防ぐことが挙げられます。
体が冷えて血行が悪くなると、子宮の筋肉が収縮しやすくなり、お腹が張りやすくなることがあります。
お腹の張りが頻繁に起こると、子宮内のスペースが狭まり、赤ちゃんが動きにくくなる一因になり得ます。
腹巻や靴下を活用したり、ぬるめのお湯にゆっくり浸かったりして体を温め、リラックスして過ごすことは、子宮環境を整える上で良いとされています。
ただし、あくまで予防を保証するものではありません。
Q. 逆子体操はいつから、いつまで行えばいいですか?
逆子体操を始める時期は、一般的に妊娠28週以降、かかりつけの医師や助産師から指導があった場合です。
妊娠中期までの早い段階では、赤ちゃんはまだ自然に回転する可能性が高いため、通常は体操の必要はありません。
また、切迫早産のリスクがある場合などは禁忌となります。
体操を続ける期間は、逆子が治るまで、あるいは分娩方法を決定する妊娠35〜36週頃までが目安です。
ただし、体操の種類や頻度、時間は個々の状態によって異なります。
必ず自己判断で行わず、専門家の指導に従い、お腹の張りや体調の変化に注意しながら無理のない範囲で実践してください。
まとめ
逆子という状態そのものが、お腹の中にいる赤ちゃんの脳の発達に直接的な悪影響を及ぼすことはありません。
発達への影響が懸念されるのは、主に経腟分娩を試みた場合に起こりうる低酸素状態などのリスクによるものです。
現代の産科医療では、これらのリスクを避けるために計画帝王切開を選択することが一般的であり、母子の安全が最優先されます。
逆子の原因は多岐にわたり、多くは妊娠後期に自然に治ります。
不安な点があれば一人で抱え込まず、かかりつけの医師や助産師に相談し、正しい情報に基づいて出産に備えることが重要です。
髙下葉月 【資格】 【経歴】 【SNS】この記事の監修者

大島はり灸院 院長。
呉竹鍼灸柔整専門学校卒業。
高校卒業後から5年間、鍼灸院・介護施設にて臨床経験を積む。
資格取得後は本八幡鍼灸院に入社し、2022年に系列院である大島はり灸院の院長に就任。
現在は妊娠中・産後ケアを中心に、逆子・マタニティ腰痛・肩こり・頭痛・むくみなど幅広い不調に対応している。
はり師、きゅう師、あん摩マッサージ指圧師、トコちゃんベルトアドバイザー
呉竹鍼灸柔整専門学校 卒業(https://www.kuretake.ac.jp/)
本八幡鍼灸院入社
大島はり灸院院長就任
インスタグラム:https://www.instagram.com/oojimaharikyuin/?hl=ja
アメーバブログ:https://ameblo.jp/oojima-harikyu/






