妊娠中の坐骨神経痛で歩けない…。辛い痛みの原因と妊婦ができる治し方・対処法

妊娠中に「お尻から足にかけて電気が走るように痛い」「痛くて歩けない」といった坐骨神経痛の症状に悩む妊婦は少なくありません。
お腹の赤ちゃんが大きくなるにつれて身体には様々な変化が起こり、それが神経を圧迫して辛い痛みを引き起こすことがあります。

この記事では、妊娠中の坐骨神経痛の主な原因から、妊婦が自宅で安全にできる痛みの治し方やセルフケア、日常生活での注意点までを詳しく解説します。

歩けないほどの痛みも…妊娠中に起こる坐骨神経痛の主な症状

坐骨神経痛とは、腰から足先まで伸びる「坐骨神経」が何らかの原因で圧迫されたり刺激されたりして生じる痛みの総称です。
主な症状としては、お尻、太ももの裏、ふくらはぎ、すね、足先にかけて、しびれや鋭い痛み、ピリピリとした痛みなどが現れます。
多くは片側の足に症状が出ますが、両側に出ることもあります。

症状がひどくなると、「痛くて立ち上がれない」「歩けない」「寝返りがうてない」など、日常生活に大きな支障をきたすケースも少なくありません。

なぜ?妊娠中に坐骨神経痛がひどくなる4つの原因

多くの妊婦を悩ませる坐骨神経痛ですが、その原因は一つではなく、妊娠による身体の劇的な変化が複合的に絡み合って引き起こされます。
特に、お腹が大きくなるにつれて姿勢が変化したり、出産準備のためにホルモンバランスが変わったりすることが大きく影響します。

ここでは、妊娠中に坐骨神経痛が悪化しやすくなる主な4つの原因について、それぞれ詳しく見ていきましょう。

お腹が大きくなることによる姿勢の変化

妊娠中期から後期にかけてお腹が大きくなると、体の重心が前方に移動します。
すると、妊婦は無意識にバランスを取ろうとして腰を反らせるような姿勢、いわゆる「反り腰」になりがちです。
この反り腰の姿勢は、腰の骨や関節、そしてお尻周りの筋肉に大きな負担をかけ続けます。

特に、お尻の奥にある梨状筋という筋肉が過度に緊張し硬くなることで、その下を通る坐骨神経を圧迫しやすくなります。
この圧迫が、お尻から足にかけての痛みやしびれを引き起こす直接的な原因となるのです。

骨盤を緩めるホルモンの影響

妊娠すると、出産に備えて「リラキシン」というホルモンが分泌されます。
このホルモンには、赤ちゃんが産道を通りやすくするために、骨盤の関節や靭帯を緩める働きがあります。
骨盤が緩むこと自体は出産のために必要な生理現象ですが、その一方で骨盤が不安定になり、歪みやすい状態にもなります。

骨盤が歪むと、左右のバランスが崩れて周囲の筋肉に余計な負担がかかったり、骨盤のズレが直接坐骨神経を刺激したりすることがあります。
このように、ホルモンの影響による骨盤の不安定化も、妊婦が坐骨神経痛を発症しやすい一因です。

大きくなった子宮による神経の圧迫

妊娠後期に入ると、胎児の成長に伴って子宮も急激に大きくなります。
大きくなった子宮が、骨盤内にある坐骨神経を直接圧迫してしまうことがあります。
特に、出産が近づき赤ちゃんの頭が骨盤内に下がってくると、神経への圧迫がさらに強まる可能性があります。

この直接的な圧迫は、お尻や足への鋭い痛みやしびれの原因となり得ます。
妊婦の身体の内部で起こる物理的な変化が、坐骨神経痛を引き起こす直接的な要因になるケースも少なくありません。

運動不足による筋力低下と血行不良

妊娠中はつわりや体調不良、お腹が重くなることなどから、どうしても活動量が減り運動不足になりがちです。
運動量が減ると、体を支えるために重要な腹筋、背筋、お尻の筋肉などが衰えてしまいます。
筋力が低下すると正しい姿勢を保つことが難しくなり、反り腰が悪化するなどして腰への負担が増大します。

また、体を動かさないことは全身の血行不良にもつながります。
血行が悪くなると筋肉が硬くなり、疲労物質も溜まりやすくなるため、筋肉の緊張から坐骨神経が圧迫され、痛みやしびれが生じやすくなるのです。

【自宅でできる】歩けないほどの辛い痛みを和らげるセルフケア5選

歩けないほどの坐骨神経痛は非常に辛いものですが、妊娠中でも自宅で安全に取り組めるセルフケアによって痛みを和らげることが可能です。
ただし、ここで紹介する方法は根本的な治し方ではなく、あくまで症状を緩和するための対症療法です。
痛みが強い時や、お腹が張るなど体調が優れない時は無理をせず、かかりつけの医師に相談することを優先してください。

体調の良い時に、リラックスしながら試してみましょう。

凝り固まったお尻の筋肉を伸ばすストレッチ

坐骨神経痛の緩和には、神経を圧迫しているお尻周りの筋肉、特に梨状筋をほぐすストレッチが有効です。
安全に行える方法として、椅子に座った状態でのストレッチがあります。
まず、椅子に深く腰掛け、背筋を伸ばします。

次に、痛む方の足のくるぶしを、反対側の足の膝の上に乗せます。
その状態から、息を吐きながらゆっくりと上半身を前に倒していくと、お尻の筋肉が心地よく伸びるのを感じられます。
痛みを感じない範囲で20〜30秒キープし、ゆっくりと元の姿勢に戻ります。
呼吸を止めずにリラックスして行うことがポイントです。

テニスボールを活用した簡単セルフマッサージ

テニスボールを使うと凝り固まったお尻の筋肉をピンポイントでほぐすことができます。
このセルフマッサージは手軽にできる痛みの治し方の一つです。
まず床に仰向けになり両膝を立てます。
次に痛みや凝りを感じるお尻の箇所の下にテニスボールを置きます。

ゆっくりと体重をかけ特に「痛気持ちいい」と感じるポイントで圧をかけながら小さく円を描くように動かしたり数秒間キープしたりします。
強い痛みを感じる場合はすぐに中止し圧をかけすぎないように注意が必要です。
手軽に筋肉の緊張を和らげることができます。

痛みの緩和に効果的なツボ押し

東洋医学の観点から、坐骨神経痛の症状緩和に役立つとされるツボを刺激するのも一つの治し方です。
代表的なツボに、お尻のえくぼ(くぼみ)あたりにある「環跳(かんちょう)」があります。
このツボを、親指の腹を使ってゆっくりと5秒ほど押し、ゆっくり離すという動作を数回繰り返します。

また、ふくらはぎの中央あたりにある「承山(しょうざん)」も効果的とされています。
ツボ押しは、強い痛みを感じない、心地よい程度の圧で行うことが大切です。
リラックスできる時間に行うと、より効果が期待できます。

骨盤ベルトで不安定な骨盤を支える

ホルモンの影響で緩んで不安定になった骨盤を、骨盤ベルトで適切にサポートすることで、痛みが軽減される場合があります。
骨盤ベルトを正しい位置に装着すると、骨盤が安定し、歩行時や立ち座りの際の腰やお尻への負担が軽減されます。
これにより、姿勢が改善され、坐骨神経への圧迫が和らぐ効果も期待できます。

ただし、強く締めすぎると血行を妨げる原因になるため、製品の説明書をよく読み、適切な強さで着用することが重要です。
どの骨盤ベルトを選べばよいか、また正しい装着方法が分からない場合は、かかりつけの産婦人科医や助産師に相談してみると良いでしょう。

無理せず横になり身体を休める

痛みが強く、歩くのも辛いという時には、何よりも安静が第一です。
無理して動くと症状が悪化する可能性があるため、楽な姿勢で横になり、体を休ませましょう。

横になる際は、痛む方を上にして、膝と膝の間にクッションや抱き枕を挟むと、骨盤が安定して腰への負担が軽くなります。
特に、体の左側を下にし、上の脚(右脚)の膝を曲げて前に出す「シムスの体位」は、お腹の重さによる血管の圧迫を防ぎ、多くの妊婦が楽に感じられる姿勢です。
休息を十分にとることも、痛みを和らげるための重要なセルフケアの一つと心得ましょう。

痛みを悪化させない!日常生活で意識したい3つのポイント

坐骨神経痛の辛い痛みを少しでも和らげるためには、セルフケアに加えて日常生活での過ごし方を見直すことも非常に重要です。
無意識に行っている動作や習慣が、知らず知らずのうちに腰に負担をかけ、症状を悪化させている可能性があります。

ここでは、痛みを悪化させないために日頃から意識したい3つのポイントを紹介します。
少しの工夫で、痛みとの付き合い方が変わるかもしれません。

身体を温めて血行を促進する

身体、特に下半身や腰回りが冷えると、筋肉が硬直し血行が悪化してしまいます。
血行不良は痛みを増強させる原因となるため、日常的に身体を温めることを意識しましょう。

ぬるめのお湯での入浴は、リラックス効果と共に全身の血行を促進し、筋肉の緊張を和らげるのに役立ちます。
入浴が難しい場合でも、足湯をしたり、蒸しタオルやカイロで腰やお尻を温めたりするのも効果的です。
また、腹巻きやレッグウォーマー、靴下などを活用して、冷えから身体を守る工夫をすることも大切です。

抱き枕などを活用して楽な姿勢で寝る

睡眠中の姿勢は、腰への負担を大きく左右します。
お腹が大きくなると仰向けで寝るのが辛くなり、腰が反って痛みを悪化させることがあります。
そのため、横向きで寝るのがおすすめです。

特に、お腹への圧迫が少なく、血流を妨げにくい「シムスの体位」が推奨されています。
抱き枕やクッションを足の間に挟んだり、お腹の下に置いたりすることで、体圧が分散され、骨盤が安定し、より楽な姿勢を保つことができます。
自分にとって最もリラックスできる寝姿勢を見つけることが、睡眠の質を向上させ、痛みの回復にもつながります。

正しい座り方を心がけ腰への負担を減らす

長時間座っていると腰への負担が大きくなるため、正しい座り方を意識することが重要です。
椅子に座る際は、浅く腰掛けるのではなく、お尻を背もたれにつけるように深く座りましょう。
骨盤を立てるイメージで背筋を自然に伸ばし、足の裏全体がしっかりと床につくように椅子の高さを調整します。
必要であれば足台を使いましょう。

また、クッションや丸めたタオルを腰と背もたれの間に挟むと、腰椎の自然なカーブが保たれ、負担を軽減できます。
30分に一度は立ち上がって軽く体を動かすなど、こまめに姿勢を変えることも忘れないようにしましょう。

自己判断はNG!妊娠中の坐骨神経痛でやってはいけないこと

辛い痛みから一刻も早く解放されたいと思うのは当然ですが、妊娠中という特別な時期には、自己判断での対処が思わぬリスクにつながることがあります。
特に、薬の使用や身体への強い刺激は、妊婦自身と胎児の安全を最優先に考え、慎重になる必要があります。

ここでは、良かれと思ってやったことが逆効果にならないよう、妊娠中の坐骨神経痛で避けるべき行動について解説します。

市販の湿布や飲み薬を安易に使用する

ドラッグストアなどで手軽に購入できる湿布薬や痛み止めの飲み薬には、妊婦への安全性が確立されていない成分や、胎児に影響を及ぼす可能性のある成分が含まれている場合があります。
特に「非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)」という成分は、妊娠後期に使用すると胎児の心臓や腎臓に影響を与えるリスクが指摘されています。

痛み止めが必要な場合は、絶対に自己判断で使用せず、必ずかかりつけの産婦人科医に相談してください。
医師の診断のもと、妊婦でも安全に使える薬を処方してもらうことが重要です。

痛い部分へ強すぎるマッサージや刺激を与える

痛む箇所を強く押したり揉んだりすれば楽になるように感じるかもしれませんが、これは非常に危険な行為です。
炎症を起こしている神経や筋肉に対して強い刺激を加えると、かえって炎症を悪化させ、症状を長引かせる原因になりかねません。
家族などにマッサージを頼む場合も、優しくさする程度に留めてもらいましょう。

また、妊婦への施術に関する専門知識や経験がない整体院などでの強い刺激を伴う施術も避けるべきです。
セルフケアを行う際も、あくまで「痛気持ちいい」範囲を厳守し、強い痛みを感じたらすぐに中止してください。

セルフケアで改善しない場合は?我慢せずに専門家に相談しよう

自宅でできるストレッチやマッサージ、生活習慣の見直しを試しても一向に痛みが良くならない、あるいは日に日に悪化して歩くことさえ困難になっている場合は、我慢せずに専門家に助けを求めるべきです。
妊娠中の痛みだから仕方ないと諦める必要はありません。

適切な専門家のサポートを受けることで、辛い症状を和らげ、より安心してマタニティライフを送ることができます。

まずはかかりつけの産婦人科医に伝える

坐骨神経痛のような症状を感じたら、何よりもまず、妊婦健診の際に必ずかかりつけの産婦人科医に相談してください。
医師は、その痛みが妊娠に伴う一般的なものであるか、あるいは他の病気が隠れていないかなどを判断します。
痛みの程度や日常生活への支障を具体的に伝えることで、妊婦でも安全に使用できる湿布や痛み止めを処方してもらえたり、骨盤ベルトの着用を勧められたりすることがあります。

また、必要に応じて整形外科や、妊婦への施術が可能な整体院など、他の専門家への受診を指示してくれる場合もあるため、最初の相談窓口として非常に重要です。

妊婦への施術が可能な整体院や鍼灸院を探す

かかりつけ医に相談し、許可を得た上で、整体や鍼灸といった専門家の施術を受けるのも有効な選択肢の一つです。
ただし、施術を受ける際は、必ず「マタニティ専門」「妊婦対応可」などと明記している治療院を選びましょう。
妊婦の身体の特性を熟知し、安全な施術を提供できる知識と経験を持った施術者であることが絶対条件です。

専門家による施術は、骨盤の歪みを整え、硬くなった筋肉を的確にほぐすことで、セルフケアだけでは改善が難しい痛みの根本原因にアプローチできる可能性があります。
事前に施術内容や安全性をよく確認してから利用しましょう。

この痛みはいつまで?産後も坐骨神経痛が続く可能性について

多くの妊婦を悩ませる坐骨神経痛ですが、その原因の多くは妊娠に伴う身体の変化によるものです。
そのため、出産によって大きくなった子宮による神経の圧迫がなくなったり、骨盤を緩めていたホルモンの分泌が落ち着いたりすることで、産後数週間から数ヶ月のうちに自然と症状が軽快していくケースがほとんどです。

しかし、出産時の骨盤へのダメージや、育児による無理な姿勢が続くことで、産後も痛みが続いてしまう人もいます。

まとめ

妊娠中の坐骨神経痛は、お腹の赤ちゃんの成長に伴う体型の変化やホルモンの影響など、妊婦ならではの複数の原因が絡み合って起こる症状です。
歩けないほどの激しい痛みを伴うこともあり、日常生活に大きな影響を与えます。
今回ご紹介したストレッチや生活習慣の改善といったセルフケアは、痛みの緩和に役立ちますが、最も重要なのは自己判断で無理な対処をしないことです。

辛い痛みを我慢せず、まずはかかりつけの産婦人科医に相談し、適切なアドバイスを受けてください。
必要であれば専門家の力も借りながら、安全な方法で痛みをコントロールし、穏やかな気持ちで出産を迎えましょう。

この記事の監修者

髙下葉月
大島はり灸院 院長。
呉竹鍼灸柔整専門学校卒業。
高校卒業後から5年間、鍼灸院・介護施設にて臨床経験を積む。
資格取得後は本八幡鍼灸院に入社し、2022年に系列院である大島はり灸院の院長に就任。
現在は妊娠中・産後ケアを中心に、逆子・マタニティ腰痛・肩こり・頭痛・むくみなど幅広い不調に対応している。

【資格】
はり師、きゅう師、あん摩マッサージ指圧師、トコちゃんベルトアドバイザー

【経歴】
呉竹鍼灸柔整専門学校 卒業(https://www.kuretake.ac.jp/
本八幡鍼灸院入社
大島はり灸院院長就任

【SNS】
インスタグラム:https://www.instagram.com/oojimaharikyuin/?hl=ja
アメーバブログ:https://ameblo.jp/oojima-harikyu/