妊娠後期、片方だけの股関節痛で歩けない…臨月の妊婦ができる原因と対策

妊娠後期、特に出産を間近に控えた臨月に入ると、多くの妊婦が体の様々な変化に直面します。
中でも「片方の股関節が痛い」「歩けないほどの痛みがある」といった悩みは少なくありません。
39週を迎える頃には、いつ陣痛が来てもおかしくない時期だけに、強い痛みは大きな不安につながります。

この記事では、妊娠後期に生じる片方の股関節痛の原因を詳しく解説し、自宅でできる具体的な対策や、病院へ相談すべき症状の目安について紹介します。

妊娠後期に片方の股関節だけが痛むのはなぜ?

妊娠中の股関節痛は左右両方に出ることもありますが、片方だけに強い痛みや違和感を覚えるケースも珍しくありません。
その理由として、元々の体の歪みや、日常生活での癖が関係していることが考えられます。
例えば、いつも同じ側の足に体重をかけて立つ、足を組む時に同じ足を上にするなどの癖があると、体のバランスが崩れ、片方の股関節に負担が集中しやすくなります。

また、お腹の中にいる赤ちゃんの位置や向きによって、子宮が左右どちらかの神経や血管をより強く圧迫し、片側だけに痛みが生じることもあります。
このように、妊娠による体の変化と個人の身体的な特徴が組み合わさることで、痛みが片方だけに出やすくなります。

歩けないほど痛い…妊娠後期の股関節痛を引き起こす主な原因

妊娠後期、特に臨月になると股関節の痛みが増し、歩くことさえつらくなることがあります。
このつらい痛みの背景には、出産に向けて体が劇的に変化することが大きく関係しています。

女性ホルモンの作用による骨盤のゆるみや、大きくなったお腹を支えるための姿勢の変化など、複数の要因が複雑に絡み合って股関節に大きな負担をかけているのです。
ここでは、歩行が困難になるほどの股関節痛を引き起こす可能性がある、いくつかの主な原因について詳しく解説します。

出産準備ホルモン「リラキシン」で骨盤の関節がゆるむ

妊娠すると、リラキシンというホルモンが分泌されます。
このホルモンには、赤ちゃんが産道をスムーズに通り抜けられるよう、骨盤のつなぎ目である靭帯や関節を緩める働きがあります。

出産には不可欠な体の変化ですが、関節が緩むことで骨盤全体が不安定な状態になります。
その結果、骨盤を支えている股関節やその周りの筋肉に過剰な負担がかかり、炎症や痛みを引き起こす原因となります。
特に、骨盤が不安定な状態で歩いたり動いたりすることで、股関節にずれが生じ、痛みが増悪することがあります。

大きくなったお腹を支えることで姿勢が崩れる

妊娠後期になると、お腹が大きく前にせり出してくるため、体の重心が前方に移動します。
多くの妊婦は、無意識のうちに上半身を反らせてバランスを取ろうとするため、「反り腰」の姿勢になりがちです。

この反り腰の姿勢は、腰だけでなく骨盤の傾きを助長し、股関節にも大きな負担をかけます。
骨盤が前に傾くことで、股関節の前側の筋肉や靭帯が常に引き伸ばされた状態になり、痛みが生じやすくなります。
また、お腹を支えるために足を開き気味にした「がに股」歩きになることも、股関節の特定の箇所に負荷を集中させ、痛みを引き起こす一因です。

赤ちゃんが下がることで神経や血管が圧迫される

臨月に入り出産が近づくと、赤ちゃんは産道を通りやすくするために、頭を骨盤の中へと下げてきます。
この現象は「胎児の下降」と呼ばれ、出産の準備が進んでいるサインです。

しかし、大きくなった子宮が骨盤内に下りてくることで、その周辺にある太い血管や神経が圧迫されることがあります。
特に、お尻から足先にかけて伸びている坐骨神経などが圧迫されると、股関節周辺に鋭い痛みやしびれが生じる場合があります。
また、血流が悪くなることで、筋肉が硬直し、痛みをさらに強く感じさせることもあります。

体重の増加によって股関節への負担が大きくなる

妊娠期間を通じて、赤ちゃんの成長や羊水、胎盤、そして母体の血液量や脂肪の増加により、体重は徐々に増えていきます。
この増加した体重を日々支えているのが、体の土台となる股関節です。
歩いたり、階段を上り下りしたりといった日常的な動作だけでも、股関節には体重の数倍もの負荷がかかると言われています。

妊娠後期にはその負荷が最大になり、股関節の軟骨や周囲の筋肉、靭帯に継続的なストレスがかかります。
この物理的な負担の増大が、関節の炎症を引き起こし、痛みの直接的な原因となるのです。

坐骨神経痛が股関節の痛みとして現れている可能性

股関節が痛いと感じていても、実際には「坐骨神経痛」が原因である場合があります。
坐骨神経は、腰からお尻を通り、太ももの裏側から足先までつながる人体で最も太い神経です。

大きくなった子宮や、妊娠による骨盤の歪みによってこの神経が圧迫されると、お尻や太もも、ふくらはぎにかけて、電気が走るような鋭い痛みやピリピリとしたしびれが生じます。
この痛みの放散範囲が広いため、本人は股関節の痛みだと感じることが少なくありません。
特に、片側のお尻から足にかけて症状が出やすいのが坐骨神経痛の特徴です。

【自宅でできる】つらい股関節の痛みを和らげるセルフケア方法

歩くのもつらい股関節の痛みは、日常生活の質を大きく下げてしまいますが、工夫次第で和らげることが可能です。
専門的な治療が必要な場合もありますが、まずは自宅でできる安全なセルフケアから試してみるのが良いでしょう。

体を温めて血行を促したり、骨盤ベルトで体をサポートしたりする対策はすぐに取り入れられます。
また、簡単なストレッチやマッサージで筋肉の緊張をほぐすことも効果的です。
ここでは、つらい痛みの緩和に役立つ6つのセルフケア方法を紹介します。

体を温めて股関節周りの血行を良くする

股関節周りの筋肉が冷えて硬くなると、血行が悪化し痛みが強くなることがあります。
体を温めて血流を良くすることは、痛みの緩和に非常に効果的です。

一番のおすすめは、38~40℃程度のぬるめのお湯にゆっくりと浸かること。
リラックス効果もあり、筋肉の緊張が和らぎます。
湯船に浸かれない場合は、蒸しタオルや腹巻き、カイロなどを利用して、痛みを感じる股関節の付け根やお尻周りを温めるのも良いでしょう。
入浴後など体が温まった状態で、痛む部分を優しくなでるようなマッサージを加えると、さらに血行が促進されます。

骨盤ベルトでゆるんだ骨盤を安定させる

出産準備ホルモンの影響で緩んでしまった骨盤を物理的に支えることは、痛みの軽減に有効な対策です。
市販されている妊婦用の骨盤ベルトや腹帯を活用し、骨盤を正しい位置で安定させましょう。
骨盤が安定することで、歩行時や立ち上がる際に股関節にかかる負担が減り、動きが楽になります。

選ぶ際は、自分の体型に合ったサイズのものを選び、着用方法を守ることが大切です。
締め付けすぎると血行不良やお腹の圧迫につながるため、気持ち良いと感じる程度の強さで固定してください。
特に、日中の活動時に着用し、就寝時は外すなど、メリハリをつけて使用します。

抱き枕を活用して楽な寝姿勢を見つける

妊娠後期になると、お腹の重みで寝る姿勢が定まらず、睡眠中に股関節へ負担をかけてしまうことがあります。
特に、仰向け寝は腰や股関節に負担がかかるだけでなく、大きな子宮が血管を圧迫して血行を妨げる可能性があるため避けましょう。

推奨されるのは、体の左側を下にして横になる「シムスの体位」です。
このとき、抱き枕を足の間に挟むと、上の足の重みが直接下の足にかかるのを防ぎ、骨盤のねじれを補正してくれます。
この対策により、股関節周りの筋肉がリラックスし、睡眠中の痛みを軽減できます。

妊婦さん向けの簡単なストレッチで筋肉をほぐす

硬くなった股関節周りの筋肉をほぐし、柔軟性を保つことは痛みの緩和につながります。
ただし、お腹に負担をかけないよう、無理のない範囲で行うことが絶対条件です。
例えば、四つん這いの姿勢からお尻をゆっくりかかとの方に引いていくストレッチや、床にあぐらをかいて座り、背筋を伸ばしたまま上半身をゆっくり前に倒すストレッチなどがあります。

痛みを感じる手前の「気持ちいい」と感じるポイントで動きを止め、深い呼吸を繰り返しましょう。
お腹の張りや体調不良を感じる日は中止し、かかりつけ医に相談の上で行うと安心です。

長時間同じ姿勢でいることを避けてこまめに動く

座りっぱなしや立ちっぱなしなど、長時間同じ姿勢を続けることは、特定の関節や筋肉に負担を集中させ、血行不良を招きます。
痛みを悪化させないための対策として、意識的にこまめに体を動かすことが重要です。

デスクワーク中であれば、30分に1回は立ち上がって少し歩いたり、座ったまま足首を回したりするだけでも効果があります。
立ち仕事の場合は、時々屈伸運動をしたり、足踏みをしたりして、股関節周りの筋肉を動かしましょう。
同じ姿勢で固まってしまうのを防ぎ、負荷を分散させることが痛みの予防につながります。

座るときは深く腰かけ、背筋を伸ばすことを意識する

日々の座り方も股関節への負担に大きく影響します。
椅子に浅く腰かけて背中を丸めるような座り方は、骨盤が後ろに倒れてしまい、股関節や腰に大きなストレスを与えます。
痛みを予防・軽減するための対策として、正しい座り方を心がけましょう。

椅子に座る際は、お尻を背もたれにしっかりとつけ、骨盤を立てるように意識します。
背筋をまっすぐに伸ばし、両足の裏がきちんと床につくように椅子の高さを調整することも大切です。
腰と背もたれの間にクッションや丸めたタオルを挟むと、骨盤が安定しやすくなり、楽な姿勢を保てます。

こんな症状は要注意!病院に相談すべき股関節痛の目安

妊娠中の股関節痛は多くの妊婦が経験しますが、中には医療機関への相談が必要なケースもあります。
セルフケアを試しても痛みが改善しない、または悪化する場合には、自己判断で我慢し続けないことが大切です。

特に、股関節の痛み以外に体の不調が見られる場合は、早産や他の病気の可能性も考えられます。
安心して出産を迎えるためにも、これから挙げるような症状が見られたら、すぐにかかりつけの産婦人科に連絡し、指示を仰いでください。

痛みで歩けない、立てないほどの激痛がある

日常生活に著しい支障が出るほどの激しい痛みは、注意が必要なサインです。
例えば、痛みで自力で立ち上がれない、一歩も足を踏み出せない、痛くて寝返りが打てないといった状態は、単なる妊娠に伴う症状の範囲を超えている可能性があります。

恥骨の関節が過度に開いてしまう「恥骨結合離開」や、骨盤の関節に強い炎症が起きている「仙腸関節障害」など、専門的な診断や治療が必要な状態かもしれません。
痛い動きを無理に繰り返すと症状が悪化する恐れがあるため、まずはかかりつけ医に電話で相談しましょう。

安静にしていても痛みが治まらず、日に日に強くなる

妊娠に伴う一般的な股関節痛は、横になったり楽な姿勢をとったりすることで、ある程度は和らぐことが多いです。
しかし、安静にしていても痛みが全く軽減しない、あるいは日を追うごとに痛みがどんどん増していくような場合は、注意が必要です。

痛みの原因が、単なる身体的な負荷だけではない可能性が考えられます。
痛みの強さや頻度、どのような時に痛いかなどを記録しておき、受診の際に医師へ具体的に伝えることが重要です。
痛い状態を我慢せず、早めに専門家の判断を仰いでください。

股関節の痛み以外にしびれや発熱などの症状が見られる

股関節の痛みに加えて、他の症状が現れた場合は特に注意が必要です。
足に力が入らない、感覚が鈍い、強いしびれが続くといった症状は、神経が強く圧迫されているサインかもしれません。
また、痛む股関節の周辺が赤く腫れて熱感がある、あるいは38度以上の発熱がある場合は、関節内で細菌感染が起きている「化膿性股関節炎」などの可能性も否定できません。

さらに、規則的なお腹の張りや出血を伴う痛みは、切迫早産の兆候であることがあります。
これらの症状がある場合は、すぐに病院に連絡してください。

まとめ

妊娠後期の片方の股関節痛は、出産に向けたホルモンバランスの変化や、大きくなるお腹による物理的な負担が主な原因です。
この痛みは妊娠中期から現れる人もいますが、特に臨月になると強くなる傾向があります。
多くの場合は、体を温める、骨盤ベルトでサポートする、楽な姿勢を心がけるといったセルフケアで対応できます。

しかし、歩行困難なほどの激痛、安静にしていても悪化する痛み、しびれや発熱といった他の症状が伴う場合は、自己判断せずに必ずかかりつけの医師に相談してください。
不安な症状は抱え込まず、専門家と連携しながら、心穏やかに出産の日を迎えましょう。

 

この記事の監修者

髙下葉月
大島はり灸院 院長。
呉竹鍼灸柔整専門学校卒業。
高校卒業後から5年間、鍼灸院・介護施設にて臨床経験を積む。
資格取得後は本八幡鍼灸院に入社し、2022年に系列院である大島はり灸院の院長に就任。
現在は妊娠中・産後ケアを中心に、逆子・マタニティ腰痛・肩こり・頭痛・むくみなど幅広い不調に対応している。

【資格】
はり師、きゅう師、あん摩マッサージ指圧師、トコちゃんベルトアドバイザー

【経歴】
呉竹鍼灸柔整専門学校 卒業(https://www.kuretake.ac.jp/
本八幡鍼灸院入社
大島はり灸院院長就任

【SNS】
インスタグラム:https://www.instagram.com/oojimaharikyuin/?hl=ja
アメーバブログ:https://ameblo.jp/oojima-harikyu/