産後の肥立ちが悪い症状と原因とは?いつまで続く?自分でできる対処法
出産という大仕事を終えた後、心身にさまざまな不調が現れることがあります。
これは「産後の肥立ちが悪い」状態かもしれません。
この記事では、産後の肥立ちが悪いときに見られる具体的な症状やその原因、体調が回復するまでの期間の目安について解説します。
また、ご自身でできるセルフケア方法や、医療機関を受診すべきサインも紹介するため、産後の体調に不安を感じている方はぜひ参考にしてください。
そもそも「産後の肥立ち」とは?産褥期の体の回復期間を指す
産後の肥立ちとは、出産を終えた女性の体が、妊娠前の状態まで回復していく過程やその経過を指す言葉です。
医学的には産褥期(さんじょくき)と呼ばれ、この期間は一般的に出産後6~8週間とされています。
妊娠・出産によって大きく変化した子宮や骨盤、ホルモンバランスなどが、時間をかけて元に戻っていくための非常に重要な時期です。
この回復が順調に進むことを産後の肥立ちが良い、逆に体調不良が続いたり、回復が遅れたりする状態を産後の肥立ちが悪いと表現します。
この期間の過ごし方は、その後の長期的な健康にも影響を与えるため、無理をせず心身を休めることが求められます。
【要注意】産後の肥立ちが悪いときに出やすい7つの症状
産後の肥立ちが悪いときには、心身にさまざまなサインが現れます。
これらの症状は、体がまだ回復しきれていない、あるいは何らかのトラブルを抱えていることを示している可能性があります。
代表的な症状を知っておくことで、ご自身の状態を客観的に把握し、適切な対処につなげることができます。
ここでは、特に注意したい7つの具体的な症状について詳しく解説していきますので、当てはまるものがないか確認してみましょう。
子宮の戻りが遅い(子宮復古不全)
子宮復古不全は、出産によって大きくなった子宮が、本来のペースで収縮して元の大きさに戻らない状態を指します。
通常、子宮は産後6週間ほどで妊娠前のサイズに戻りますが、この回復が遅れると様々な不調を引き起こします。
主な症状としては、赤色や褐色の出血である悪露(おろ)が長期間続いたり、一度減ったはずの量が再び増えたり、レバーのような血の塊が出たりすることが挙げられます。
また、下腹部に鈍い痛みを感じることもあります。
胎盤の一部が子宮内に残っていることや、感染症などが原因となる場合があるため、悪露の状態に異常を感じたら早めに産婦人科に相談することが重要です。
38度以上の高熱が続く(産褥熱)
産褥熱は出産後の産褥期に分娩時の傷口などから細菌が侵入し子宮内やその周辺で感染炎症が起こることによって発症します
主な症状は産後24時間以降から10日以内に見られる38度以上の発熱です
高熱のほかにも下腹部痛や悪寒悪臭のする悪露などが伴う場合があります
原因となる細菌には大腸菌やブドウ球菌などがあり治療が遅れると腹膜炎や敗血症といった重篤な状態に陥る危険性もあります
産褥熱が疑われる場合は自己判断で様子を見るのではなく速やかに医療機関を受診し適切な抗菌薬治療などを受ける必要があります
胸のしこりや痛みを感じる(乳腺炎)
乳腺炎は、母乳が乳房内に溜まること(うっ滞)や、乳頭の傷から細菌が侵入することで乳腺が炎症を起こす状態です。
特に授乳期に多く見られ、胸の一部が赤く腫れて熱っぽくなったり、しこりができて触ると強い痛みを感じたりします。
症状が進行すると、38度以上の高熱や悪寒、関節痛といったインフルエンザに似た全身症状が現れることもあります。
授乳がうまくいっていなかったり、赤ちゃんが母乳を飲む量が少なかったりすることが原因で起こりやすくなります。
悪化させないためには、しこりを感じたら早めに赤ちゃんに吸ってもらう、搾乳するなどの対処が必要です。
排尿時の痛みや頻尿になる(膀胱炎)
産後は膀胱炎を発症しやすい時期でもあります。
出産による会陰切開の傷の痛みや、骨盤底筋のダメージによって尿意を感じにくくなったり、排尿を我慢してしまったりすることが原因で起こります。
また、慣れない赤ちゃんのお世話で忙しく、水分補給が不足したり、トイレに行くタイミングを逃しがちになることも一因です。
主な症状には、排尿時の痛みやツーンとする感じ、トイレが近くなる頻尿、排尿後もすっきりしない残尿感などがあります。
重症化すると腎盂腎炎を引き起こし、高熱や背中の痛みにつながることもあるため、気になる症状があれば水分を多めに摂り、早めに泌尿器科や産婦人科を受診しましょう。
気分の落ち込みが激しい(マタニティブルー・産後うつ)
産後はホルモンバランスの急激な変化や、睡眠不足、育児へのプレッシャーなどから、精神的に不安定になりやすい時期です。
多くの人が経験するのが「マタニティブルー」で、理由もなく涙が出たり、気分が落ち込んだり、イライラしたりします。
これは産後数日から2週間程度で自然に軽快することがほとんどです。
しかし、これらの症状が2週間以上続いたり、赤ちゃんを可愛いと思えない、自分を責め続ける、食欲がない、眠れないといった状態が悪化したりする場合は「産後うつ」の可能性があります。
産後うつは専門的な治療が必要な病気であり、一人で抱え込まずに心療内科や精神科、地域の保健師などに相談することが不可欠です。
めまいや立ちくらみがする(産後の貧血)
産後にめまいや立ちくらみ、倦怠感、動悸、息切れなどを感じる場合、貧血が原因である可能性が考えられます。
出産時には誰でも多くの血液を失うため、産後は一時的に貧血状態になりやすいのです。
さらに、母乳は血液から作られるため、授乳によって体内の鉄分が消費されることも貧血を助長します。
貧血になると、体の隅々まで酸素が十分に行き渡らなくなり、疲労が取れにくくなったり、集中力が低下したりして、育児にも支障をきたすことがあります。
食事から鉄分やタンパク質、ビタミンCなどを意識的に摂取することが大切ですが、症状が続く場合は医師に相談し、鉄剤を処方してもらうなどの対応が必要です。
足のむくみや痛みがひどい(静脈血栓塞栓症)
静脈血栓塞栓症は、一般的に「エコノミークラス症候群」としても知られています。
妊娠中から産後にかけては、血液が固まりやすくなるため、この病気のリスクが高まります。
特に足の静脈に血の塊(血栓)ができやすく、片方の足だけが急に赤く腫れ上がったり、痛みや熱感が生じたりするのが特徴的な症状です。
この血栓が血流に乗って肺まで到達し、肺の血管を詰まらせてしまうと「肺血栓塞栓症」という命に関わる危険な状態を引き起こすことがあります。
急な息苦しさや胸の痛みといった症状が現れた場合は、救急受診が必要です。
産後は長時間同じ姿勢でいることを避け、適度に足を動かすことが予防につながります。
産後の肥立ちが悪化する主な原因
産後の肥立ちが悪くなる背景には、一つの原因だけでなく、身体的、精神的、そして環境的な要因が複雑に絡み合っています。
出産による身体への大きなダメージに加え、慣れない育児による睡眠不足や疲労の蓄積は、回復を遅らせる直接的な原因となります。
また、ホルモンバランスの急激な変動は、精神的な不安定さを引き起こしやすくします。
さらに、核家族化が進んだ現代では、身近に頼れる人が少なく、育児や家事を一人で抱え込みがちになる社会的背景も、産後の心身に大きな負担をかけていると言えるでしょう。
産後の肥立ちが悪い状態はいつまで続く?目安は産後6~8週間
産後の肥立ちが悪いと感じる状態がいつまで続くのかは、多くの人が気になるところです。
体が妊娠前の状態に回復するための期間である「産褥期」は、一般的に産後6~8週間とされています。
この期間は、子宮の収縮や悪露の排出、ホルモンバランスの再調整など、体内で大きな変化が起こっています。
そのため、この産褥期の終わり頃までには、多くの身体的な不調は少しずつ改善していくのが一般的です。
しかし、これはあくまで目安であり、回復のスピードには個人差が非常に大きいです。
心身ともに完全に回復したと実感できるまでには、1年近くかかる人も少なくありません。
焦らず、自分の体の声を聞きながら過ごすことが重要です。
産後の肥立ちを良くするために今日からできる4つのセルフケア
産後の肥立ちを良くするためには、専門的な治療が必要な場合もありますが、日常生活の中での過ごし方を見直すことで、回復を促すことも可能です。
大きなダメージを受けた心と体をいたわるためには、特別なことよりも基本的な生活習慣を整えることが重要になります。
ここでは、今日からでもすぐに始められる4つのセルフケアを紹介します。
無理のない範囲で、ご自身の生活に取り入れてみてください。
何よりもまず体を休めることを最優先する
産後の体は、交通事故に遭ったのと同じくらい大きなダメージを受けていると言われるほどです。
そのため、回復には何よりもまず十分な休息が必要です。
昔から「床上げ」という言葉があるように、産後3週間から1ヶ月程度は、できるだけ横になって過ごすのが理想とされています。
赤ちゃんのお世話以外は家族に任せるなどして、自分の体を休める時間を意識的に確保しましょう。
赤ちゃんが眠っている時間は、家事を片付けようとせず、一緒に横になって体を休めることが大切です。
細切れでも睡眠時間を確保することで、体力の回復が促され、精神的な安定にもつながります。
回復を助ける栄養バランスの取れた食事を摂る
出産で消耗した体力を取り戻し、母乳を通じて赤ちゃんに栄養を届けるためにも、産後の食事は非常に重要です。
特に、血液を作る材料となる鉄分やタンパク質、骨や歯を丈夫にするカルシウム、細胞の再生を助けるビタミン類などをバランス良く摂取することを心がけましょう。
和食を基本とした、野菜たっぷりの汁物や煮物、魚料理などがおすすめです。
育児で忙しく、ゆっくり食事を摂る時間がなくても、おにぎりや具沢山のスープなど、手軽に栄養補給できるものを準備しておくと良いでしょう。
一度にたくさん食べられない場合は、食事の回数を分けて、こまめに栄養を摂る工夫も有効です。
無理のない範囲で産褥体操を始める
産後、体調が落ち着いてきたら、無理のない範囲で軽い運動を取り入れることも回復を助けます。
産褥体操は、出産でダメージを受けた骨盤底筋群の回復を促したり、悪露の排出を助けたり、血行を促進して体の回復を早める効果が期待できます。
まずは寝たままの姿勢でできる足首の曲げ伸ばしや、お尻の穴をきゅっと締めるような簡単な動きから始めてみましょう。
産後1ヶ月検診で医師から運動の許可が出たら、少しずつストレッチやウォーキングなどを加えていくと良いです。
ただし、痛みや違和感がある場合は絶対に無理をせず、すぐに中止して休むようにしてください。
家族や公的サービスに頼って一人で抱え込まない
産後は体力的にも精神的にも余裕がなくなりやすい時期です。
育児や家事をすべて一人で完璧にこなそうとすると、心身ともに疲弊してしまい、回復が遅れる原因になります。
パートナーや両親、兄弟など、周りの家族に「つらい」「手伝ってほしい」と具体的に伝え、積極的に助けを求めましょう。
また、家族のサポートが得られにくい場合は、自治体が提供する産後ケア事業やファミリー・サポート、民間の家事代行サービスやベビーシッターなどを活用することも有効な手段です。
外部の力を借りることに罪悪感を感じる必要は全くありません。
自分の体を休めるため、そして笑顔で赤ちゃんと向き合うために、使えるサービスは積極的に利用しましょう。
産後の回復を遅らせる!産褥期に避けるべき4つのこと
産後の体を順調に回復させるためには、積極的にセルフケアを行うだけでなく、回復を妨げる可能性のある行動を避けることも同じくらい重要です。
良かれと思ってやっていることや、ついやってしまいがちな習慣が、実は体に大きな負担をかけている場合があります。
ここでは、産褥期に特に注意して避けるべき4つの行動について解説します。
意識して生活することで、産後の肥立ちをより良い方向へ導くことにつながります。
無理なダイエットや激しい運動
妊娠中に増えた体重を早く戻したいと焦る気持ちは分かりますが、産後すぐの無理なダイエットは禁物です。
産褥期は、出産で消耗した体力を回復させ、母乳を作るために多くの栄養を必要としています。
極端な食事制限は、体力不足や貧血を招くだけでなく、母乳の質にも影響を及ぼしかねません。
また、腹筋運動やジョギングといった激しい運動は、まだ回復しきっていない骨盤底筋や子宮に大きな負担をかけてしまいます。
運動を再開するのは、産後1ヶ月検診で医師の許可を得てから、まずは軽いストレッチやウォーキングなどから徐々に始めるようにしましょう。
長時間のスマホ操作や読書で目を酷使する
産後はホルモンバランスの変化や睡眠不足の影響で、自律神経が乱れやすく、目の疲れを感じやすい状態にあります。
授乳中や赤ちゃんが寝ている間に、ついスマートフォンを長時間見てしまうという人も多いかもしれませんが、これは眼精疲労を招き、頭痛や肩こり、めまいといった不調の原因になります。
細かい文字を追う読書も同様です。
産褥期はできるだけ体を横にして休めることが最優先なので、意識的にデジタルデバイスから離れる時間を作り、目を休ませてあげましょう。
ブルーライトカットの眼鏡を使用したり、画面の明るさを調整したりするなどの工夫も有効です。
体を冷やす飲み物やインスタント食品中心の食生活
産後の体は、出産による出血やホルモンバランスの変化により、血行が悪くなりやすく、冷えやすい状態です。
体が冷えると、血液の循環が滞り、子宮の回復が遅れたり、母乳の出が悪くなったりする原因にもなります。
そのため、冷たい飲み物やアイスクリーム、体を冷やす作用のある夏野菜などを摂りすぎるのは避けましょう。
温かいお茶やスープ、根菜類など、体を温める食事を心がけることが大切です。
また、育児で忙しいからとインスタント食品やコンビニ弁当ばかりに頼るのも考えものです。
これらは栄養が偏りがちで、塩分や添加物が多く含まれているため、回復期の体には負担となる可能性があります。
育児や家事を完璧にこなそうと頑張りすぎること
初めての育児では特に、「ちゃんとしたお母さんでいなければ」という責任感から、すべてを完璧にこなそうと頑張りすぎてしまう傾向があります。
しかし、産褥期は心身ともに不安定な時期であり、無理は禁物です。
掃除や洗濯が毎日できなくても、食事の用意が完璧でなくても、赤ちゃんは元気に育ちます。
完璧を目指すあまり、自分の休息時間を削ってしまうと、体力の回復が遅れるだけでなく、精神的に追い詰められ産後うつの引き金になることもあります。
「今日はお惣菜で済ませよう」「掃除は週末にまとめてやろう」など、上手に手を抜くことを覚え、自分自身を大切にすることが何よりも重要です。
こんな症状はすぐ病院へ!受診を検討すべきサイン
産後の体調不良の多くは、時間の経過とともに改善していきますが、中には医療的な介入が必要な危険なサインが隠れている場合もあります。
「これくらい大丈夫だろう」と自己判断で我慢してしまうと、症状が悪化してしまう恐れがあります。
例えば、38度以上の高熱が2日以上続く、悪露の色が一度薄くなったのに再び鮮血に戻ったり、悪臭がしたりする、会陰切開や帝王切開の傷がひどく痛んだり腫れたりする、といった症状は感染症の可能性があります。
また、気分の落ち込みが2週間以上続いて日常生活に支障が出ている、突然の激しい腹痛や胸の痛み、息苦しさがある、片足だけがパンパンに腫れて痛むといった場合も、速やかに出産した産婦人科やかかりつけ医に連絡し、受診してください。
まとめ
産後の肥立ちが悪い状態は、出産を経験した女性なら誰にでも起こりうるものです。重要なのは、それを自分のせいだと責めずに、今は体を休めるべき時期だと受け入れることです。
十分な休息とバランスの取れた食事を基本とし、家族や公的なサービスにも積極的に頼りましょう。今回紹介したセルフケアを実践しつつ、危険なサインを見逃さないことが大切です。産後の過ごし方は、その後の育児を楽しむための土台作りになるだけでなく、将来の更年期の不調の度合いにも影響すると言われています。つらい症状が続く場合は、決して一人で抱え込まず、ためらわずに医療機関に相談してください。
髙下葉月 【資格】 【経歴】 【SNS】この記事の監修者

大島はり灸院 院長。
呉竹鍼灸柔整専門学校卒業。
高校卒業後から5年間、鍼灸院・介護施設にて臨床経験を積む。
資格取得後は本八幡鍼灸院に入社し、2022年に系列院である大島はり灸院の院長に就任。
現在は妊娠中・産後ケアを中心に、逆子・マタニティ腰痛・肩こり・頭痛・むくみなど幅広い不調に対応している。
はり師、きゅう師、あん摩マッサージ指圧師、トコちゃんベルトアドバイザー
呉竹鍼灸柔整専門学校 卒業(https://www.kuretake.ac.jp/)
本八幡鍼灸院入社
大島はり灸院院長就任
インスタグラム:https://www.instagram.com/oojimaharikyuin/?hl=ja
アメーバブログ:https://ameblo.jp/oojima-harikyu/






